〈業界大手が破産危機〉大荒れの「SiCパワー半導体」がルネサスとロームを翻弄→ルネサスは減損2800億円リスク、巨額投資のロームは赤字転落

「まさに事故ですよね。2年前にはこんなことになるなんて誰も思っていなかった」
次世代パワー半導体として期待されてきたSiCパワー半導体が大荒れだ。
5月21日、半導体メーカー・ルネサスエレクトロニクス株が一時4%下落した。発端となったのは、アメリカの大手SiCパワー半導体メーカー・ウルフスピードが破産法の申請に向けて動いていると報じられたことだ。
ウルフスピードは、SiCパワー半導体や、その基板となるSiCウェハーを手がけるトップメーカーの1社。同社に対して、ルネサスは2023年に20億ドル(約2860億円)を「預託金」という形で貸し付ける契約を結んでいる。
仮にウルフスピードが破綻して回収が不可能になれば、巨額の減損損失もありうる。冒頭で、半導体メーカー関係者が“事故”と表現したのはこのことだ。
そもそも、なぜルネサスが同じ半導体メーカーであるウルフスピードに対して20億ドルという巨額の貸し付けを行ったのか。この背景には、ルネサスだけでなく市場全体が抱える、SiCパワー半導体という技術領域の特殊性がある。
特殊なSiCのサプライチェーン
家電や自動車、産業機械などで幅広く用いられ、電力の制御や変換を行っているのがパワー半導体だ。中でも、材料としてシリコンではなく炭化ケイ素(SiC)を用いる「SiCパワー半導体」は、シリコンよりも高い電圧に耐えられ、省電力性にも優れるという特徴を持つ。特に、EVの高性能化のためには、SiCパワー半導体が欠かせない。
SiCパワー半導体が一般的なパワー半導体と大きく異なるのは、そのサプライチェーンの構造にある。
SiCパワー半導体の原料となるSiCウェハーは、製造・加工の難易度が非常に高い。加えて、市場規模がシリコンウェハーに比べて圧倒的に小さいため、シリコンウェハーで世界トップの信越化学工業やSUMCOといった企業は、SiCウェハーの製造には参入していない。
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