米・ドーピング公認大会「エンハンスド・ゲームズ」はアスリートを破壊に導く《人体実験》でしかない――五輪銀メダリストと医師が語る"怖さ"

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彼はオーストラリア出身の企業家で、オックスフォード大学卒業後は、年金業界向けテック企業サルゴン社を創業し、2018年に株の持分を売却して資産を築いた。

ディスーザは、プロレスラーのハルク・ホーガンによるガウカー・メディアへの名誉毀損訴訟を支援したことで有名だ。この訴訟は最終的にガウカーの倒産を招き、報道の自由に対する脅威として批判された。

ディスーザ以外の出資者としては、PayPal共同創業者であり、Facebook初期投資家として知られるピーター・ティールがいる。前出のガウカー・メディアに対する訴訟の共同支援者でもあり、これまで民主主義に懐疑的な発言を繰り返している。

ドナルド・トランプ・ジュニアもエンハンスド・ゲームズの出資者の1人だ。投資ファンド「1789キャピタル」を通じて、数千万ドルを出資する。

USADAは「エンハンスド・ゲームズの背後にいる者たちは、手っ取り早く金儲けをしようとしている」と批判しているが、彼らはそんなことは気にしないようだ。

ケタが違う「遺伝子ドーピング」

筆者が最も危惧しているのは、「遺伝子ドーピング」の導入だ。

近年、急速に進歩している遺伝子治療技術をドーピングに応用するというもので、既に動物実験レベルでは、筋肉量を40%増やしたなどの報告が存在する。これは従来のドーピングとはケタが違う。こうしたことから、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)は「最大の懸念対象」との主張を繰り返している。

すでに筋肉量を増大させる遺伝子治療は、実用化されている。全身の筋力が低下する難病、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子治療薬エレゲンは、2023年にアメリカで承認され、1回の治療費320万ドルで販売されている。現在、厚労省も承認を検討中だ。

これに類した技術が十分な倫理的議論もなく、エンハンスド・ゲームズで人体に応用されてもおかしくはない。これは「個人の自由」を超え、「金儲けのための人体実験」だ。

今こそ国際社会が倫理と規範を明確に問い直すべきときである。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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